裏猫道
裏猫道
R18
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「オレ、ナルトがいないと生きていけないよ」
馬っ鹿じゃねえの。
カカシ先生の家に続く道は、商店街を通り抜け、うねうねと曲がりくねった人気の少ない住宅街をしばらく歩いたところにある。その近く遠い距離が、オレを憂鬱にさせるのだ。ああ、まるで平行感覚を狂わす坂のよう。
カカシ先生は定期的に嘘を吐く。あの人は大人で、オレは子供。オレに、拙いところはあると思うよ。仕方ないよな、オレの人生経験は貴方の半分。
だけどさ――…。ねえ、カカシ先生、オレに見え見えの嘘を吐かないで。裏切られた時の、ひゅって寒くなる瞬間が繰り返されるたびに体が冷たくなるんだ。カカシ先生。オレってばそんなに馬鹿じゃない。愚鈍でもない。温められることがないオレの体はどんどん温度を失っていく。
オレが、カカシ先生のサスケに対する特別な思いに気付いたのは、まだ12歳の頃だった。二人がどれほど深い関係だったのかオレにはわからない。オレは修行して自分が強くなることで頭がいっぱいだったから。
だけど、カカシ先生にとってサスケは特別な存在だったに違いない。カカシ先生の生活の中には、あいつと一緒に過ごした影がところどころ残っていた。
4年後に、オレとカカシ先生は付き合ったのだけど、未だにカカシ先生の中を占めるサスケの存在がオレを憂鬱にさせる。二人が似た者同士だということは知っていた。孤独を愛する嗜好に、徹底した秘密主義。オレから見ても、二人はお似合いだと思った。今でもカカシ先生は嬉しそうに、そして少し寂しそうにサスケの話をオレにするから、オレはそれを黙って笑いながら聞く。本当は、心臓がズキズキと痛いくせに。だから、オレは未だに自分に対して自信がない。カカシ先生は本当にオレのことが好きなんだろうか。オレよりサスケが好きなんじゃないだろうか。カカシ先生はサスケを里抜けさせてしまったことを今でも悔やんでいるらしい。オレは、そんなカカシ先生の傍に寄り添うことしかできなくて、カカシ先生の中でのサスケの大きさを思い知るのだ。
こんな二人の関係が上手く行くはずがないのに、ズレた歯車は、カタカタと破滅の音と立てながら回って行く。
「カカシ先生、勝手に入るってばよー」
オレはドアノブを捻って、玄関にあがった。床にスーパーの買い物袋を置くと、そのままサンダルを脱いで部屋の中に入る。
「カカシ先生、どうせ晩飯まだだろ。オレ、作って行くってばよ」
持参したエプロンの紐を結びながら、オレは部屋の奥にいるカカシ先生に声を掛けた。カカシ先生はソファーに寝転がって読書中のようだ。いつも通りの光景に、オレは安著したのだろうか、それともうんざりしたのだろうか、まだ答えは出ない。
「いつも悪いね、ナルト」
「別に。ついでだし~~?」
オレは冷蔵庫の中身を確認した。思っていた通り、食べられそうな食物などはほとんどなかった。
「何か食いたいもんある?」
「なんでもいいよー」
「やっぱさ、今晩はカカシ先生の好きな秋刀魚と茄子の味噌汁かな。それとも麺類?」
背後でクククと噛み殺した笑い声が上がった。
「そうだねぇ。最近は暑いから、さっぱりしたものが食べたいな」
「んじゃ、冷やし中華に決定―…」
「結局、麺類ねぇ。野菜、たくさんいれなさいよ?」
「ははは。そう言われると思って今日はちゃんと八百屋に寄って来たってばよ」
「お。偉いじゃない」
「オレだってさ、いつまでもガキじゃないんだぜ~?」
ニコニコと笑いながら、オレはカカシ先生の方を振り返ってから、またまな板と向き合った。
「本当に良い恋人を持ってオレは幸せだな」
「おう。オレってばデキる男~」
カカシ先生と一見楽しそうに話しながらも、ダン、と鈍い切断音を立てて、オレは握っていた包丁をまな板に叩きつけた。無い物を切断した空間を、オレはじっと睨んだ。タイムリミットまでもう少し。
「ナールト。オレ、エッチしたくなっちゃった」
「え?」
「夕御飯の前にシヨっか?」
「カカシ先生。オレ、料理中……」
困ったように言ったけど、次の瞬間、どささと世界が反転した。床に押し倒されたのはオレ。あーあ、また先生に好き勝手にされちゃうんだ。ズボンに入って来たカカシ先生の手にうんざりした。性欲に滲んだカカシ先生の瞳。物凄く雄の目。そして、ガチガチになったペニスを突き入れられた。
「あ…っ」
「――ごめん。痛かった?」
額に汗を滲ませたカカシ先生は、それでもガンガン腰を進めて来る。オレの体は、羽みたいに床から浮いた。お腹、また痛くなっちゃいそうだ。ないはずの子宮が傷む。
「カカシせんせぇー…」
「ん?」
「オレのコト、好き?」
「ああ、好きだよ…」
「誰よりも好き……?」
「変な子だね」
動物の交尾みたいに、カカシ先生が動く。は、は、は、って短い息、乱しちゃってさ、オレと言えば天上のシミを数える事に夢中。
「おまえは本当に可愛いね。細い腰も、甲高い声も、具合も最高…――くっ」
カカシ先生、目を瞑りながらさ、それ、誰のことを言ってるの……?それから激しいセックスが何十分も続いた。
初めは、オレもカカシ先生が与えてくれる愛情を素直に受け取っていた。でもさ、オレは知ってたんだ。先生の弓形に曲がった目の奥がちっとも笑っていなかったってこと。あれは、感情のない人形の瞳だった。
別に、サスケではないからとか、九尾だからとかいう理由で、先生に嫌われてるわけではなかったと思う。カカシ先生は誰に対しても、一線引いて接する人だったから、そういった意味でオレもカカシ先生を取り巻く雑踏の中の一人だったんだ。
カカシ先生は、柳のような人だった。掴みどころがなく、近付けたと思えば、遠ざかる。誰もカカシ先生の特別で成り得ないなら、オレはカカシ先生の中で全ての人と等しく平等なんだ、と訳の分からない理屈を捏ねていた。
そう。オレは、まやかしのものでもいいから、手に入れたいと思うほど愛情に飢えたガキだったんだ。例え、貴方の心がオレに向いてなくても。誰にも情を移さない貴方の瞳が唯一、サスケに対してだけ細まっていたとしても。
「あ、あぁ、あー…」
「は、ナルト…っ」
オレとカカシ先生が付き合い出したのは、オレが、木の葉に帰って来て間もなくの頃で、16歳になって、オレはカカシ先生と肉体的な関係を持つようになった。
「美人になったね」
里に帰って来て、「でっかくなったね」の次にカカシ先生に言われた賛辞だった。里を出てから、自分の容姿が特別人目を惹くものだということに気付いていたオレは、カカシ先生の台詞を聞いて不思議な気分になった。
嬉しかった。カカシ先生の目にも自分が〝そういう風〟に映ることが、何故か堪らなく嬉しかった。
オレ、綺麗?
オレ、可愛い?
言葉に飢えてるってこういうこと。カカシ先生のためなら、男であることすら、忘れてしまうほど、オレは先生に恋をしていた。
それから何ヶ月か経って、一楽でラーメンを奢って貰った帰り道にカカシ先生の家に招かれた。そこで、なんとなくそんな雰囲気になって、オレ、カカシ先生になら抱かれてもいいかなぁって思った。そして、いつの間にかベットに押し倒されたオレの中で、ギチギチとカカシ先生のペニスが暴れまわった。それ以来、オレはセックスをするために毎日カカシ先生のアパートに行く。
「あー…あー…」
オレ、馬鹿だから。少しでもカカシ先生に気持良くなって欲しくてさ、一生懸命にカカシ先生に媚びて、赤ん坊みたいにカカシ先生の下で啼いた。尻の穴、ペニスが出る時に締めつけたりすると、カカシ先生が悦ぶの。〝処女を抱いてるみたい〟って毎回カカシ先生悦ぶの。嬉しい、嬉しい。こんなオレでも役に立ててるのだと、オレは生まれて初めてこの肉体に感謝したんだってば。
だけどさ、だけど。
カカシせんせぇー…。
ユラユラと揺れる視界の中で、オレは唇を噛み締めた。
「―――はっ。出すよ」
「あぁぁん……っ」
今、センセェーは誰を抱いてるの?
オレの背丈、サスケよりちっさいよ。オレ、ここに居るよ。ここに居るのに、誰を見てるの。
カカシセンセェー、カカシセンセェー。オレ、このままじゃ、壊れちゃうってば。
今日も、ぎこちなく床を引っ掻く手。まるで、吊り糸で吊るされたマリオネットのように、オレはカカシ先生に抱かれた。
「ねぇ、カカシ先生。もう、別れようよ……」
情事後、ため息を一緒にそんな台詞が漏れた。限界という名前が付いたコップの水が満杯になったんだと思う。
「もう、こんな関係終わりにしよう。お互いのためにもならないし、もうオレ疲れたってば…」
「どうしたの、ナルト。怒ってるの?ん?」
「違う、もういやなんだってば」
もどかしかった。どうして、この人にはオレの言葉が通じないんだよ。それほどコミュニケーションが取れていない関係だったんだと、今更のように気が付いた。
「ナルトはオレにとって大事な子だよ。いやだよ、ナルトのこと失いたくない」
いやだ、いやだ、とカカシ先生は駄々を捏ねた。そう言ってまたオレのこと、縛るつもりなんだ。いい加減、オレのこと開放して。楽にさせて。もう、全部終りにしようよ。
「オレ、ナルトがいないと死んじゃうかもしれない」
そう言われたオレが、どれだけその言葉に縛られ、重荷になるかなんて、無責任に言い放つカカシ先生はちっとも考えていないのだろう。
「……ナールト?」
「………」
「ねー、ナルト。機嫌治して?もう一回、セックスしようよ?」
ふにゃふにゃに萎えたはずの先生のが無理矢理オレの中に挿入されてきた。いやだって、抵抗しても怖い顔のカカシ先生の前では無駄だった。ガンガンに突き上げられる。
カカシ先生が、オレの中に出たり入ったり。オレのお腹の中、今日もぐちゃぐちゃ。
「…いっただきまーす。先生、沢山食えよ」
「おまえこそ、オレにばかり野菜を盛り付けない」
「だってさ、カカシ先生って痩せ過ぎだと思う。少しは肉付けた方がいいってばよ」
「おまえはオレを中年太りにさせる気か?贅肉のある忍者なんて笑えないでしょ~~」
カカシ先生は、オレの友人でもあるとある忍者一家のことを思い出したのか、クククと背中を丸める。なごやかな夕餉の時間は、ここ数か月お馴染みの食事風景で、カカシ先生は、先ほどの強姦のことなど何もなかったかのように振舞ってる。セックスをしたら、オレが全部忘れてしまったと思っているのだろう。この人はいつもそう。
そしてそんなカカシ先生に流されて甲斐甲斐しく世話を焼いてしまうオレの姿もいつもの風景。
カカシ先生持ちの夕食を平らげながら、オレはコップに水を注いだ。
「カカシ先生、今日もごちそうさまだってば」
「たく。それが目的のくせに。その抜け目のなさは誰に似たんだか…」
ふぅってため息を吐いたカカシ先生は、色違いの両眼を細めた。オレの、ちくりと傷んだ心臓とは裏腹に、自分で作った食事の味はいつも通り完璧だった。
「―――あいつはもっと大人しくて健気だった……?」
「んー?」
「なんでもねぇ」
自分が惨めになって、オレは早口でその会話を打ち切った。大好きな麺類を飲み込もうとしたが、なかなか喉を通らなくて、食べるという本来は簡単であるはずの行為に、少し苦労した。
「なぁー、カカシ先生。今度の休みさ、修行に付き合って!」
「だーめ。休息も大事なんだぞ~?」
「カカシ先生はそればっか。あのさ、あのさ、カカシ先生ってばオレが弟子だって自覚ある~?」
「んー、なーに言ってるの。おまえ。おまえにはオレが出来得る限りで最高の修業を施しているよ」
「そ…?」
「そう」
「………」
「おい、ナルト。野菜が皿に残ったままだぞ。トマトもちゃんと食いなさい」
「……ん」
「ちゃんと食いなさい」
「―――――……」
オレ、トマト好きじゃない。なのに、カカシ先生はよくオレにトマトを食べろという。たぶん、あいつの、――サスケの好物だったから。オレ、野菜嫌いって何度も言ってるじゃん。
修行だって、二人っきりで付けて貰ったことない。ましてプライベートな時間を割いてまで、なんて尚更だ。中忍試験の時に、オレとライバルになるはずだったサスケを強くさせたカカシ先生の選択を、オレは忘れることができない。
「ナールト。ほら、トマトも食べなさい」
「………」
「ナルト?」
「いやだ、食いたくねえっ」
べしゃって、トマトの果肉が床に落ちた。しん、と静まり返る部屋の中で、赤い果肉から染み出した液体が床を汚した。
「……おまえなぁ、野菜嫌いにもほどがあるぞ」
呆れたカカシ先生の声は、〝仕様が無い子〟って顔。サスケはもっと利きわけ良かったのかなぁ?
「嫌い?」
「は?」
「あいつと違って、嫌い?」
「ナルト。おまえ、さっきからいったい何に怒ってるんだ?」
「ひとつ質問していい、カカシ先生。トマトを好きだった奴は誰。オレじゃないだろ?」
「!」
「オレ、サスケの代わりじゃない…!」
ついに言ってしまった。呆然とした、カカシ先生の顔。時間が静止したかのように、部屋が静かになった。
「いつも、カカシ先生はオレの横に見えるサスケの残像を追っていただろ。オレを抱きながら、サスケのことを考えていただろ」
「………」
「カカシ先生は、オレじゃなくても良かったんだ。カカシ先生は、代わりの人間が欲しかっただけなんだ。たまたま傍にいたのがオレだから抱いた」
「そんなことないよ。オレは、ちゃんとナルトを愛してるよ?」
「ちがう。カカシ先生の愛してるは嘘だ。もし、今サスケが里に帰って来たら、オレを捨てて、サスケを選ぶんだろ!」
自然と声が上ずった。こんな陳腐な台詞を吐く自分に嫌気が差した。ふと、見るとカカシ先生の唯一晒された右目が目に見えて冷えている。
「もし、そうだとしたら、おまえはどうするの。オレと別れる気?」
カカシ先生の針のような質問。しん、と室内に静寂が満たされた。
「別れるっ、てば…」
「そう」
オレの喉は何かが張り付いたようにカラカラだった。
「そうだよ。確かにサスケはオレにとって大事な子だった、それは真実だ」
「――――っ」
心臓が切り刻まれるってこういうこと。
くらくらと眩暈がした。
「へへへ、図星なんだ?どうしよ、オレってばすげー惨め」
無理に明るい声を出して言ってみれば、一層悲壮感が漂った。ああ、オレは本当に馬鹿だ。だって、このまま何も気付かず馬鹿の振りをしていたら、もう少しだけ儚い夢を見れたかもしれないのに。
それなのに、ギャーギャー喚いてうるさくって、可愛くねぇ、恋人でごめんなさい。今のオレはさ、気付かずにいれるほど子供でもなくって、見ないことにするほど大人にも成りきれなくって、知ったかぶりできるほど、格好付けることもできないんだ。
「もー…いや。疲れた。オレはオレだよ。誰かの代わりにするくらいなら、オレのこと捨ててよ」
決定的に傷付く前に決着を付けたかった。つまりはサスケがもしこの里に帰って来たとして、選ばれるのはオレじゃないってこと。オレはお払い箱になるってこと。オレはサスケが帰って来るまでの繋ぎでしかないのだから。
「そもそもカカシ先生がオレを好きになったのは…、オレが、せっくす、するのに手頃なガキだからだろ?」
ぽたた、とフローリングの床に涙が落ちた。オレ、何泣いちゃってるんだよ。格好わりぃ。肺から吐き出された刃は、そのまま自分の胸に刺さって心臓を切り裂いた。真実を突きつけられた自分は、なんて可哀想。オレは、自分を可哀相だと思うことで、自分を守ることしかできなくて。なんて、愚かで矮小な存在なのか。
どん、とテーブルに何か重いものがぶつかる音が響いた。見れば、冷たいカカシ先生の背中。先ほどの鈍い音はカカシ先生の拳の音だろうか。
「おまえ、さっきからごちゃごちゃと…いい加減にしてくれない?」
「………っ」
「オレのことをそんなに怒らせたいの?」
カカシ先生から重々しいため息が吐かれた。それが終わりの合図だった。オレがカカシ先生から見放された音。面倒くさい子は、カカシ先生の傍にいらないのだ。
「ナルト。悪いけど帰ってくれる?」
それがカカシ先生の出した答えだった。ふらつきながら、カカシ先生の家を出ると、雨が降り始めていた。
足がガクガク震える。あんなに冷たいカカシ先生の背中、見たことない。だけど、それはオレが直面しなくてはいけない現実で、オレはぐっと堪えたんだ。
ねえ、カカシ先生の大切な人に、オレはなれないの?
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