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裏猫道

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ナルトが里に帰って来てしばらく経った頃のことだった。上忍任務の帰り道に、カカシは自分より少し若い感じの中忍2名たちの信じられないような会話を聞いてしまった。
「おい、さっきすれ違ったのってうずまきナルトか」
「ああ、そうらしいぞ。この間、帰ってきたらしいな」
「へえ、なかなか美人なったんだな」
普段は気にも掛けないすれ違いざまに聞こえる会話だった。しかし、それがナルトの話題だということで、カカシの耳が音を拾った。
「――なぁ。今度、ヤッちまうか」
おもむろに飛び出た不穏な響きを持つ単語に、ドクドクとカカシの心臓が波打った。
「はぁ、あいつをか?確かに可愛いけどなぁ?」
「どうせ九尾だ、強姦しちまっても文句はでねぇぞ。力をつけたって言っても所詮はまだガキ。あいつの家ってどこだっけ、寝込みを襲撃しちまえばこっちのもんだぜ」
「〝いやいや~〟っていうガキに無理矢理オトコを教え込むってか。相変わらず鬼畜だなぁてめぇは」
「おまえこそ、かなりノリ気じゃん。今度、俺たちで狐ちゃんと遊んで差し上げようぜ?」
何を言っているんだ、こいつらは。道端で上がった下品な笑い声に、カカシは、身体を動かすことが出来なかった。中忍の忍2名。実力は連中のいうように奇襲をかければ、かろうじてナルトより上だろうか。
ナルトが、他の男に組み敷かれる映像が思い浮かび、カッと頭に血がのぼった。
ナルトは今日は、任務がなかっただろうか。オフであれば家に居るはずだ。カカシは熱に浮かされたように、ナルトのアパートへと向かった。間に合ってくれ、とぐんぐん走るスピードが上がる。男たちが歩いていったのはナルトの家とは別方向だから、ナルトが襲われているはずもないのに、カカシは一刻も早くナルトの元へ行かなくてはという焦燥に駆られた。
足をもつれさせそうになりながらも、カカシはナルトのアパートへ辿り着いた。彼が到着したのはもちろん窓辺だ。
「……っナルト、あけて」
突然現れたカカシに、ナルトは一瞬驚いた様子だったが、すぐにはにかんだように微笑んだ。
ナルトの家を訪ねる者は少ない。単純にカカシが来てくれたことが嬉しかったのだろう。
「カカシ先生、どうしたんだってば。こうやって来てくれるなんてすげー久し振りじゃん。あ、暇なら入っていけって。お茶くらい出すよ?」
「あ、ああ…」
「なんだよ、歯切れがわりぃなぁ。いいから椅子に座ってってば」
その、無防備な笑顔を他の誰かにも見せるのだろうか。誰が訪ねて来ても簡単に家に上げてしまうのだろうか。そう思うと、カカシの中にどす黒いものが渦巻き、熱情に駆られた。
「……ナルト、ナルトはオレのこと好き?」
「ええっ。カカシ先生のこと?」
ニコニコとナルトが微笑む。
「だーっい好きだってばよ?」
「……それはどういう意味で?」
「へ?」
なんでそんなことを聞くのだとばかりにナルトが首を傾げて、コンマ一秒でこう答えた。
「カカシ先生はオレの大事な先生だってばよ!」
深く考えての発言ではないとわかっている。だけど、カカシの目の前は真っ暗になったような気がした。教師としてしかナルトと接してこなかったのだから、当たり前なのだが、今となってはそれが悔しい。
いつも傍にいてくれるから…、と小さく呟かれたナルトの言葉はカカシには聞こえなかった。
溢れ出した感情を抑えることが出来ず、自分を見上げる澄んだ碧い瞳に、煽られた。
「せ、せんせ…!?」
「ごめんな、ナルト」
気が付けば、フローリングの床にナルトを押し倒していた。奪うようなキスをして、男も女も知らないナルトの身体を開いた。その日、カカシはナルトを無理矢理抱いた。「もっと遊んでいるかと思った」なんてちっとも思っていなかったくせにわざと傷つけるようなことを言って、綺麗な身体を貪った。



追憶の海から、引き上げられるようにカカシは現実に引き戻された。
ポタポタとカカシの頬を伝って、口に入る液体。
しょっぱい。それにちょっとだけ甘い。これはなんだろう。
「カカシせんせぇ……っ」
潤んだ碧い瞳。涙。ああ、ナルトが泣いている。だけど、誰のために?
「せんせぇ、どうしてオレのこと庇ったんだってば」
口をひん曲げて、哀しみで歪んだ表情でナルトが自分を見下ろしていた。その表情も綺麗だけど、やっぱり笑ってる顔が1番好きだなぁ、なんて暢気なことを思いつつ、カカシは自分の腹部の辺りに視線を下げる。
血の滲んだ忍服を見て、己の置かれている状況を悟った。
(上忍のくせにとんだドジを踏んじゃったねぇ…)
ナルトが泣いているわけだ。この子は、優しい子だから、こんな自分の事もまだ仲間だと思っていてくれただのだろう。
近くにサクラもいるらしく、患部にチャクラが流し込まれているようだ。
「オレだったら腹にアイツがいるから平気だったのにっ。飛び出すなんてカカシ先生はバカだってば」
「ナルト、そんなこと言わな~いの。オレが勝手にやった事なんだから」
「バカ!」
絞り出すような声でナルトが言った。それは駄々っ子のそれで、おまえ、15歳になってもまだまだガキなんだねぇと笑いが込み上げてきた。身体が大きくなっても、強くなった今も、まだナルトの中身は子供なのかもしれない。…そんなガキに手を出したのは紛れもなく自分なのだけど。
ナルトを抱いたあの日、カカシは牽制するように、中忍たちを脅しにいった。ついでにそこらへんに溜まっていたあまりガラの良いとは言えない連中にも。
はたけカカシの所有物に手を出す度胸はあるのかと。
もっともそんな牽制をしなくても、上忍であるカカシの匂いの染み込んだあの部屋にノコノコやってくるバカもいなかっただろうが。
それは血臭と精液の匂いが漂う部屋で泣き疲れて眠っていたナルトが知らないカカシの行動。
カカシとナルトに絶対的に足りないのは、「言葉」なのだとあとに春野サクラは言うが、今カカシは泣き崩れるナルトを前にようやく口を開き始めた。
「ナルト、好きなんだ。おまえがまだ小さかった頃からずっと」
「……っ」
「今も昔も、おまえの年とか性別とか、見かけとかに関係なくおまえだけが好きだったんだ」
初めてカカシは、ナルトと向かい合って好きだと告げた。
「オレ、カカシ先生にそんなこと言われても困るってば…」
予想通りの反応にカカシは自嘲気味に笑う。
「カカシ〝先生〟とは、恋愛出来ないか?」
「………」
「…ナルトは酷いよね、優しいカカシ先生は好きでも、はたけカカシ自身はなんとも思っていないでしょ?」
それは、ずっとカカシが思っていたことだ。好きな子に「先生」と呼ばれるたびに苦い気持ちが込み上げていた。
教師と生徒の立場なのだから、「先生」と呼称されることは仕方がないことだが、自分は先生というカテゴリーを越えることが出来ないのだろうかと、ナルトにとってそれ以外の存在になることは適わないのだろうかと、カカシは思っていた。
「教師として以外でオレを見てくれたことある?」
思っていた通り、カカシの言葉に虚をつかれたようにナルトが固まる。
「いつも、おまえは〝カカシ先生〟。オレはおまえの先生でしかないのかな」
「そ、そんな当たり前じゃん…。カカシ先生は、オレの先生だったのに、なんで!」
「ナルト…。おまえはオレにとって大事な生徒だけど、それ以上に1人の人間として、1人の男としておまえが好きなんだ」
横たわったままのカカシが真摯な眼差しでナルトのことを見つめた。
「……そんなこと急に言われても、困る」
「困らないでナルト。お願いだから」
「困るったら、困るんだってば…」
顔の前で腕をクロスさせてナルトは表情を歪めた。教師として以外でオレを見てとか、1人の男として好きだとか、大事な足元が崩壊してしまいそうな気分になる。
ナルトにとってはやっと手に入れた教師と生徒の絆だったのに、カカシはそれとは別のものが欲しいという。
逃げるように、ナルトは首を振った。
「カカシ先生はオレのこと無理矢理抱いた。好きだから強姦してもいいの。オ、オレの気持ち無視して、いいの」
ナルトの声は時折り震えていて、カカシから受けた心の傷の深さを色濃く物語っていた。
カカシの傷の治療をしていたサクラが驚いたように顔をあげた。だけど、カカシはナルトから視線を外さないで、ナルトの濡れた頬を撫ぜた。
「ごめん、ナルト…」
「あやまったって、もうおそ・・・・―――」
涙で滲んだ視界でナルトは尚も首振った。
「ナルト。お願い、ちゃんとオレのこと考えてみて…」
「わ、わからない。カカシ先生が好きかとか、そういうの思ったことないし…わかんねぇ」
ナルトはやっぱり戸惑ったように、顔を顰めた。しばらくすると、カカシは意識を失ったようだ。膝の上にカカシの頭をのっけて、ヤマトに声を掛けられるまで、動けずにいた。
















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