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裏猫道

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ナルトがまだ下忍になりたてだった頃。忍になったからといって里人の態度が急に変わるはずもなく、暴力を受ける日々は相変わらず続いていた。
任務の後に暴力を受けた、夕暮れの帰り道。ナルトは自分の影を踏みしめながら、トボトボと道を歩いていた。暴力を受ける事には慣れてはいたが、だからと言って胸が軋まないわけではない。だから、俯いて地面を睨みつつ帰路を着いていると、道の向こう側から自分よりも長い影が伸びた。
弾かれたように顔を上げれば、そこに居たのは銀髪の大人だった。初め、ナルトはカカシになんと言い訳をすればいいのか、困ってしまった。
なぜなら自分の格好はズタボロ。修行をしていたと言うには右瞼の腫れや、殴られた痕は不自然だろう。
己の担当上忍は、里で忌まれている自分の現状をどう思うだろうか。ナルトは、自分の境遇を不幸だと感じたことはなかったが、カカシを前にした途端、惨めな自分の姿を恥じた。
しかし、カカシは「どうしたの」とも「誰にやられたのか」とも尋ねなかった。ただナルトの手を引いて、ナルトの家ではない見知らぬアパートに連れて行かれた。物珍しさからきょろきょろするナルトに、台所の椅子に座るようにと指示を出し、ナルトの家にあるものとは比べ物にならないくらい立派な救急箱を持って現れた。
カカシは、怪我を隠そうとするナルトの手に消毒液を掛け、包帯を巻いてくれた。ナルトはいつカカシに怪我のことを追求されるのではないかと、冷や冷やしていたのだが、カカシはついに誰にやられたの、とは聞かなかった。
ナルトはイルカに心配を掛けたくなかったから、いつも怪我を隠していた。だけど、カカシは何も尋ねなかったから、ほっとした。
それから、怪我をするといつもどこからかカカシが来てくれた。ナルトにとってカカシは不思議な距離にいる大人だった。手を伸ばせば、すぐに届くようで、でも遠いような、だけどいつも傍にいてくれる…、まるで夜空に浮かんでいる月のような存在だった。
圧倒的に言葉が少なくて、何を考えているのかよくわからない。イルカのように気安く話し掛けられる雰囲気でもなくて、背が高いから、見上げると、綺麗な横顔が、ちょっと怖くて、そわそわする。
たまに勇気を出して〝大好きっ〟と言って抱きつくとやんわりと「こら、やめろ」と押し返される。
「こら、やめろ」だって。変なの。変な大人だってば。ナルトの中には好きと嫌いのカテゴリーしかなくて、「こら、やめろ」って言うくせに、自分に優しい大人の態度なんてちっともわからなかった。
だけど、いつの間にか、カカシはナルトにとって大切な大人になっていた。ナルトの周りには「大人」が少なかったから。そうした意味では、カカシはナルトにとって大切な大人だったのだ。


二年半経って、里に帰って来た時、一番初めにカカシが自分の帰還を出迎えてくれた。
嬉しかった。大人が変わらずにそこにいてくれたことが、ただ単純に嬉しかった。
教師と生徒。師弟。大事な先生
ずっと、ずっと同じ関係でいられると思ったのに。
だから、それが壊れた時、ナルトはどうしていいのかわからなくなった。





「あぁあぁぁ…」
ナルトは地面に横たわるカカシを見下ろして、呆然と立ち尽くす。
「ナルト、戦闘中だよ!」
どこか遠くでヤマトの声が聞こえたが、ナルトの身体は痺れたように動けなかった。クナイが何本かまたナルトに向かって飛んできたが、寸でのところで、金属同士のぶつかり合う音と共に、地面に無数のクナイが刺さる。
「もう、ナルト。何、ボーっとしてるのよ!」
サクラが援護に駆けつけてくれたらしい。やがて、戦闘を終えたヤマトとサクラが駆け寄って来る気配がする。
「ナルト、カカシ先生…!?」
サクラの息を呑む音。
「どうしようってば…」
ナルトは地面に膝を付くと、カカシの頭を抱える。
「オレってばどうしたらいいかわかんねぇ…」
ぽたぽたと涙を零しながら、ナルトが嗚咽を漏らす。
「何言ってるのよ、早く傷の手当をしなきゃっ。今なら間に合うわ!」
そうじゃない。そうじゃないんだってば、サクラちゃん。オレってばカカシ先生のことダイッキライなはずなのに、カカシ先生なんて死んじゃえとかも思ってたのに。
今、こんなにも心が張り裂けそうなのだ。
カカシ先生はオレのこと庇うし、オレってばもうどうしたらいいかわからねぇんだってば。






 









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