裏猫道
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―――ナルト、おまえはさ教師以外の目でオレのこと見たことなかっただろ。オレはおまえに嫌われても一番大キライだと言われてもそれでもおまえが好きなんだよ。
憎まれてもいい。どんな手段を使ってもいいから、おまえの心を占める一番になりたかった。
「ナルトくんは綺麗な目の色をしているのね」
「え?」
「ずばり聞いちゃう。モテるでしょ?」
「うえええええ!?」
ぶんぶんと手を振ってナルトはそんなことはないと驚愕のあまり被り振る。「こいつがモテるわけないじゃないですかー」サクラもヒラヒラと手を振るが、「あら、意外と近くにいる女の子の方がわからないものなのね」と依頼人の女の人は悪戯っぽく笑う。
「でも、少しだけ哀しそうなのは、どうしてかしら」
休息中に依頼人の女性に指摘されて、ナルトは言葉を詰まらせた。〝カカシ先生に酷いことをされているから…〟咄嗟に頭に思い浮かんだが、心のどこかで引っ掛かりを覚える。本当にそれだけなのだろうか。
少し離れた木の切り株に座る大人は、ナルトの視線に気付いているくせに、やはり何事もなかったかのように沈黙を守っている。
「あ。今、おなかを蹴ったわ」
この子が、と言われてナルトは不思議そうになだらかな弧を描く腹部に目を落とす。
「ナルトくんもさわってみる?」
「――――……」
ナルトは、驚いたように依頼人の女性を見つめる。
「いいですっ」
思わず、強い否の言葉が出た。木の葉の里でそんなことをナルトに言ってくれる女性は一人としていなかったからだ。腹に狐を宿してる少年が、生命を育む母体に、近付くことを厭う女性は多かった。
「ナルト。せっかくなんだから、さわらせて貰いなさいよ」
サクラが勧めるも、ナルトは被り振って、「いい」「みてるだけで」ただ二言を繰り返した。
オレは汚いから。
綺麗なものに近付く資格はない。
ナルトの唇が音もなくそんな台詞を象り、逃げるように、立ち上がりその場を去った。
下を向いたナルトを、銀髪の大人が見ていることも知らずに。
身体だけの関係になって、カカシを見るナルトの視線は目に見えて冷えていった。サクラは二人の間に漂う微かな異変に勘付き掛けていたが、唯一相談できそうなヤマトさえもサクラの無言の訴えに気付いているくせに硬い表情を崩さないので、一歩踏み出せずにいた。
ナルトが、カカシとの性行為に快感を覚えるようになったのは、数えて三回目のこと。この時点でカカシはナルトを己の手の上に貶めたと言っても良い。もちろん、身体だけではあるが。
依然、ナルトの心はカカシのものにはならなかった。ただ、カカシに身体を開くだけ。当たり前だ。カカシとて、ナルトの心が手に入るとは思っていない。わかっていて、ナルトを抱いたのだから。
しかし、性行為で酷使されたナルトの心身が悲鳴を上げていることも知っていた。欲に溺れるふりをしても、ナルトを愛しいと思う単純な気持ちがカカシの中で消えたわけではない。
夜。いつものように、本来の野営地から離れたところでカカシはナルトの手を引いて自分の懐へと引き寄せた。
「……ナルト?」
いつもの抵抗がなかった。気を落としたように、力なくナルトの身体がカカシに凭れ掛かる。伏せられた金色のまつ毛、疲れたような表情。カカシはため息を落とした。
「今日は随分と張り合いがないんだねぇ」
からかいを含んだ言い方をしてもナルトの反応はない。カカシは…、ナルトの金糸を撫ぜた。すると、ナルトの碧い瞳が切なそうに揺らめいた。
「ナールト?」
「………」
「……ふう」
「え?」
頬に滑ったカカシの手が離れたかと思うと、カカシがナルトの膝にごろんと寝転ぶ。
「今日はやーめた」
子供っぽい台詞を吐いて、大人がナルトの膝の上で居心地の良い位置を探して蹲る。
「カカシ先生?」
「頭、撫ぜて」
「は……?」
「いいから黙って、頭、撫ぜてよ」
それだけ言うとカカシは瞳を閉じる。妙に威張って言い放たれた台詞は頭を撫ぜろ。いつもの命令口調のくせに、今日のカカシの注文はちぐはぐだ。
「なあに、その顔は?」
ナルトの視線に気付いたカカシが横目で睨む。
「疑ってる顔だねぇ。本当に今日は何もしなーいよ。安心しな」
「………」
ナルトは躊躇いがちにカカシの銀糸に指を絡める。カカシの髪は見た目通り、硬くて大型犬のような毛質だった。
なんかカカシ先生って本当に犬みてぇ。
そんなことを思ってしまいナルトは、はっとして首を振る。可愛いなんて思ってしまった自分の気持ちを慌てて打ち消した。
「ナールト」
そんなナルトの心の中の葛藤に気付いているのか、いないのかカカシ特有のちょっと間延びした呼び方で声を掛けられる。
「……おまえは汚くなんてないよ」
なんでもないことのようにぽつりと呟かれた言葉にナルトは戸惑いを隠せない。結局その晩、カカシはナルトに何もせずに、寝入ってしまった。
ナルトは自分の膝の上で寝息を立てるカカシを見下ろして、困惑した。
今ならクナイで寝首をかけるのではないか。そう思ったが、何故か、ナルトの手はぴくりとも動かない。
寝入るカカシの表情は柔らかくて、とても自分に酷いことをしている人には見えなかった。
そんな表情、やはり困る。お願いだから悪い人でいてくれってば。迷うことなく憎ませて欲しい。そう考えてしまう自分はやっぱりまだ子供なのかもしれない。
襲撃があったのは、もうすぐ目的の場所に依頼人を送り届けられるという国境付近のことだった。依頼人を庇いながらサクラが逃げて、カカシ、ヤマト、ナルトは敵と対峙する。
白銀の線が闇夜に交錯する。ヤマトが印を組んで、地面から木が伸びる。その上をカカシとナルトが駆けた。
ミスが起きたのは、敵の数を3分の1ほど倒した後だ。ナルトが誤ってバランスを崩し、敵の攻撃がナルトに集中したのだ。向かってくるクナイの嵐は、膝を突いたナルトに避けきれる数ではなかった。
「――――っ!」
刃物が、肉に食い込む鈍い音が森の中に立て続けに響いた。
(もう、ダメだってば…っ)
ナルトは来るべき衝撃に耐えようと歯を食い縛る。大丈夫、九尾の回復力を以ってすれば、この程度の怪我など、ただ痛いだけだ。
が。しかし、いつまで経っても来るべき痛みがない。そのうえ、頬に付着した温かいこの液体はなんだろう。鉄の匂いがやけに鼻についた。
「え……?」
ナルトの頬に、血が点々と付いていた。指の腹でそれを拭うと、確かにそれは血液だった。
「オレは、痛くないってば…」
では、この血の持ち主は誰だろうと、恐る恐る見上げると、ナルトを庇い、敵のクナイを背中に受けて、カカシは倒れていた。
「カカシ先生…?」
ナルトの心臓がドクドクと脈打つ。どこか遠くでヤマトの声が聞こえる。ナルト、と呼んだのか、カカシ先輩、と呼んだのか、ナルトには判断することが出来ない。
ただ、呼びかけても反応のないカカシを、ナルトは見下ろした。
「センセ…?」
カカシ先生がここで死んだらオレは、解放される…?もう無理矢理身体を開かされることもない。だけど、地面に広がる赤を見て最初に感じた感情は、ただ果てし無い…―――目眩。
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