闇に咲く赤い悪の華
カカシ先生はオレの事を好き過ぎて少しおかしくなっちゃったんだって。綱手のばぁちゃんにそう言われて、オレってば呆然としてしまった。いったい、何が悪かったのか、オレにもわからない。オレがもう少し早くカカシ先生の変化に気付いてやれば良かったんだろうか。それとも、カカシ先生のどんどん狂っていった歯車はオレなんかじゃ止められなかったかな。
曼珠沙華の華がくるくる舞う。オレの足元には、誰かの犠牲で流れた血の水たまりがいっぱい。ああ、なんと血に満ちた悪の人生なのか。
カカシ先生が火影邸の座敷牢に投獄されて数日後、必死の暗部の捜索により木の葉丸は里外れの森の納屋の中で見付かった。発見された木の葉丸はかなり衰弱してたらしいが、幸いにも命に別条はなかったらしい。水も食料も与えられず一週間以上も放置されていたものの、木の葉丸がただの子供ではなく下忍であった事が幸いしたようだ。本当に良かった。
先代の火影の孫を殺したとなれば、幾ら里に貢献している凄腕の上忍とはいえ、流石のカカシ先生も極刑を免れる事が出来なかっただろうが、木の葉丸が幼かったせいか、それとも単なる気まぐれか、カカシ先生は木の葉丸を誘拐しただけで遊郭の女の時のようにとどめをささなかった。それが、情状酌量の余地になったらしい…とオレはカカシ先生が座敷牢に投獄されるまでの経緯を綱手のばぁちゃんから伝え聞いた。どうも、話に聞く限り今回のカカシ先生の処分を決めたのは、綱手のばぁちゃんではなく、里の上層部のお偉方たちらしい。例え、狂人でも写輪眼のカカシを殺すのは惜しい、とかそういう所なのだろう。
結局、カカシ先生は女郎を殺した容疑と、己の生徒に危害を加えた罪で、無期限で軟禁される事になった。
尤も今でも木の葉丸は大人が近寄ると誘拐された時のトラウマで何かに怯えているらしい。早く精神の錯乱が終わり、元の元気な木の葉丸に戻ればいいなと思う。
そしてサクラちゃんは…。サクラちゃんはあの日から木の葉病院のベッドに寝たきり、目を覚まさない。カカシ先生の催眠眼は、サクラちゃんを深い眠りの底に引き込んだ。
数年前より独自で改良されたカカシ先生の瞳術は、カカシ先生以外に解く術を持たず、綱手のばぁちゃんでもお手上げだった。
だから、この任務はオレにしか出来ない事なんだ。オレは、サクラちゃんのためなら、この暗い地下牢でどんなことだってしてやる。
オレは草原で曼珠沙華の華を手折ると、それを手土産にとある場所に向かった。
「カカシ先生。差し入れを持ってきたってばよ」
火影邸の地下に隠された座敷牢は、ひんやりとして、やけに静かだ。平和な時代が続いた証拠なのだろう。暗い独房に入っている住民は、はたけカカシただ一人だ。
だから、誰にも見られない空間がオレを大胆にさせ、この任務を遂行するのに尤も最適な条件を作り出す。
「カカシ先生。寝てるの…?」
暗い座敷牢の中に問いかけると、人が起き上がる気配があった。
「あ。ナルトォ…。先生に会いに来てくれたの?」
ぺったりと座敷牢に座ったカカシ先生は振り返って、本当にオレに会えて嬉しそうな声。無邪気な笑顔で微笑まれ、オレは戸惑いを隠しつつ、カカシ先生に笑い掛けた。これは、任務なんだと忘れてはいけない。
「カカシ先生。ほら、今日の晩ご飯だってば」
オレがお盆に載せた食事を置くと、鉄格子越しに手が伸びてくる。元から日に焼けていなかったカカシ先生の肌の色は、この座敷牢に入ってからさらに白さを増した。しかし、食事ではなくオレの腕を掴んだ手に、呆れてしまう。ぱらりと曼珠沙華の華がオレの手から床に何本か落ちる。
「ちゃんと飯、食えってばよ…」
床に這いつくばり、オレの指を一生懸命舐めているカカシ先生に、殆ど諦めのような気持ちを抱きながら、好きなようにさせておく。
「――なぁ。カカシ先生、そろそろサクラちゃんの瞳術を解く方法を教えてくれってばよ」
「………」
「どうやったらサクラちゃんは目を覚ますんだってば?」
オレの問い掛けにカカシ先生は答えない。いや、無視を決め込んでいるのだろう。その証拠に、オレの指を舐めるのが大好きなくせに、オレが他の人間の話をするのが気に食わなかったらしく、指を舐め回すのをやめると、牢屋の奥に移動してそっぽを向いてしまった。
「なぁ。いじけるなってば、カカシ先生。どうしたら、あの術を解く方法を教えてくれるんだってば?」
「ナルトがもっとオレの傍にきてくれたら…」
今日もお決まりの答えにオレは、はぁ、とため息を吐いて、背中を向けたカカシ先生に特別に優しい声を出す。
「仕方ねぇなぁ、カカシ先生は。それじゃあ約束だってばよ?」
「ナルトがこっちにきてくれるんなら、サクラの術を解くヒントを一個教えるよ」
オレは持っていた錠の鍵を使って牢屋の中にするりと滑り込む。カカシ先生はオレが牢屋の中に入ってくると、本当に嬉しそうな顔をした。
「ん。なうと…なう…好き…」
飢えたようなカカシ先生の声。たった一日、間を開けただけなのに、それが先生には欲求不満になっちゃってたみたい。カカシ先生はオレに伸し掛かって上着のチャックを開けると、オレの胸に赤ちゃんみたいに吸いついている。
「はぁ、ん…っ」
思わず漏れる吐息は条件反射。オレはカカシ先生に引き寄せながら、膳の上に載っていた粥のような食事を指で一掬いした。
「ほら。オレがこうやって食べさせてやるから、…な?」
オレは自分の胸元に粥を擦り付ける。すると、カカシ先生が発情した犬のように下半身を押しつけてきた。
「ん…っ。まだ、だめだってばよ。カカシ先生。ちゃんと飯食ってからだからな?」
松明の僅かな灯りしかない、暗闇の中。艶美に微笑むと、それだけでカカシ先生の下半身が硬く育っている事がよくわかった。
やがて、オレの身体は悪食なカカシ先生により、ぐちゃぐちゃに食い散らかされる。もう自分の上でぬめっているものが、粥だが、カカシ先生の唾液だが境界線がつかない。
「カカシ先生、美味しい…?」
「んふ…っ。んぐ、ん、ん、ん……っ」
「そう、良かった……」
オレの指は既にカカシ先生の唾液によってだらだらに濡れていた。ひちゃひちゃとやたらと派手な音を立てながら、カカシ先生の舌がオレの指をしゃぶり尽くす。
意地悪をして、少し指を遠くに上げると、カカシ先生の唇が追い掛けるように吸いついてくる。
「ん、なうと…。好き、なう…」
上層部から秘密裏に命ぜられた任務をこなす代わりに、オレはサクラちゃんの瞳術を解く方法を聞き出すために、カカシ先生と面会する権利を特権的に手に入れた。配膳係という名目ではあったが、おかげでオレは毎日カカシ先生の座敷牢に行く事が出来た。
「ほら。カカシ先生、もっとオレを食べて…?」
「あふ、なう、なると…」
そして、オレは毎日カカシ先生の食事に中毒性のある毒を仕込む。カカシ先生は、他の看守相手では食事に手を付けようとしないどころか、男女問わずに手練手管を使って陥落させてしまうせいで、実質先生の面倒を見ているのは殆どオレらしい。手練手管を使って…の内容も、その後看守等がどうなったのかもオレは考えたくない。もしかしたら、カカシ先生の殺した人間は遊女の他に一人は二人ではない事になっているかもしれないが、今のオレはどうしてかな、そんな事を気にしてなんていられないんだ。
サクラちゃん…。サクラちゃん…。ごめんなさい…。きっと彼女はオレがこんな方法で、救出される方法を望んでいないに違いない。綺麗な、本当に綺麗な心の女の子だから…。でも、オレってばもう汚れちゃった。
「欲しいの…。カカシ先生……?」
そろそろ良い頃合いだろうというところで、オレは、するりと己の下半身の衣服を取り払う。
カカシ先生のせいで、もうほとんと裸体に近かったのだが、上着だけお座成りに引っ掛けて、自ら膝立ちになると、事前に香油を塗り込んできた蕾に指の先を挿入するようにして、カカシ先生を誘った。
きっと今のカカシ先生は上も下も涎でだらだらなんだろうな。入口を曝け出すと、ごくん、とカカシ先生の唾が垂下される音がする。ああ、カカシ先生に欲されてる。
「キテ…、ってば…」
安っぽい誘い文句を吐けば、カカシ先生は簡単に息を荒くしてオレにがっついてきた。ああ、哀しいってば。オレはかつての師の変わり果てた姿に、ゆっくりと目を瞑る。
「ん…っ。やっぱりそれ(香油)は嫌いなんだ…?」
カカシ先生はこの香油があまり好きではないらしい。オレはでんぐり返しされるみたいに、座敷牢の床の上に転がされると、恥部を余すところなく舐められる。
「オレの味がしないから、嫌い…?」
「………」
「でもしょうがないだろ。オレってば、いきなり入れられたら壊れちゃうもん。だからちゃんと自分で準備してきてるんだってば。ねぇ、聞いてる?カカシ先生?」
「………」
カカシ先生はオレのアソコを舐める事に夢中。仕方ないのでオレってば、カカシ先生の衣服を脱がしてやる。
「カカシ先生、もう満足した…?」
やっとカカシ先生がオレの下半身から顔をあげた。カカシ先生の顔は、丹念に舐めとった香油とオレの中心部から零れた精液で濡れていた。
「んっ。オレのも興奮してきたみたいだってば…」
オレは自分のペニスを数度扱うと、声を漏らした。そして、次に格子に掴まるようにして、カカシ先生の方を振り返った。
「先…」
次の瞬間、噛みつくようなキスと共に、ずぐんと何かが侵入する感触。その何かが、物凄いスピードで暴れている。
「――――――っつ。…カシ先生っ!!」
「は…っ、はっ、なうと…、なると!」
「だ、だめだってば。いきなり動きすぎ…っうあっ」
オレの中で、カカシ先生のが既にブルブルと震えている。嘘だろ、入れた瞬間に射精間近だなんて堪ったものではない。オレってばそのまま、何度もカカシ先生に突き上げられて、揺すられて、格子に掴まっているのが精一杯の状態で、呆気なく一度目の情交を終えた。
もちろん、射精したのはカカシ先生だけだ。オレのペニスはもう限界という状態で放置され赤く腫れている。
「んんん…。流石にこれは酷いってばよ。カカシ先生…」
オレが涙混じりで、カカシ先生の方を怨みがましく振り向けば、ナカに入ったままだったまだ硬いカカシ先生のが動いた。まだカカシ先生の性欲は収まっていないみたいだ。当たり前だ、あの薬には自我を崩壊させる効果と共に興奮作用もあるのだから。
「ん、あっ、あぁ、あっ」
一度吐き出した精液のぬめりも借りて、カカシ先生が再び律動を開始する。今度は荒くゆっくりなピストン運動で、オレも幾らか楽しめた。そのままカカシ先生の動きに合わせてオレは自分の片手を使って自慰行為を始める。
「んく…ふ、あぁあん」
「ふ…。なる、なうと…オレも手」
カカシ先生が背後からオレの勃起した茎に両手を添えてきてくれる。大きな大人の手に包まれただけで、オレのってば厳禁にも物凄く興奮してきて、だらだらと精液が零れた。
「あ、あ、あっ。カカシ先生…!」
「あ。なう、と…っ」
ふんわりと一瞬だけ華の香りが漂って、果てと首を傾げる。ああ、床に散らばった曼珠沙華だ。赤いそれは薄暗い座敷牢の中でやけに淫媚で。そのままオレはカカシ先生と共に達した。
「ナルト、綺麗…」
まだ息を切らしているオレの背後でカカシ先生がオレにキスを繰り返している。顔中にキスの雨が降って、いい加減呆れたオレはぐいっとカカシ先生を引き離した。
「なるとぉ…」
「はい、はい。もうキスはわかったから…」
捨てられた仔犬のような表情になったカカシ先生の唇を軽く啄んで、オレはカカシ先生の胸を軽く押す。力なんて全然入れていないのにカカシ先生は簡単に床に転がった。
「次は、オレが上になって動いてあげるってば」
床に倒れたカカシ先生の上に馬乗りになって、床に散らばっていた曼珠沙華を掲げて微笑めば、心底嬉しそうな先生の顔。そのままオレは、ゆっくりと身体を降ろす。
「あ、あふっ。カカシ先生…っ」
思わず漏れた嬌声。カカシ先生からは感嘆の嘆声が漏れる。熱い吐息が混じり合って、オレは結合部の位置を確認しながらお互いの最も感じる位置を探して律動を開始した。
「カカシせんせぇ、きもちいい?」
「あ、あ、なると…っ」
「そう。良かった」
オレはカカシ先生の声に気を良くしてさらにカカシ先生のペニスを内部で擦り付ける。
「あ、あぁぁ…」
ぎゅうう、と内部を締め付ければ、ぶるぶるとカカシ先生がオレの中で射精している。すぐにオレも達してしまって、過ぎた快楽にオレはカカシ先生の胸に倒れ込む。
「なう…と」
くぅん、と耳元に鼻先を付けられ、濡れた瞳で見詰られる。
「うん。オレもカカシ先生が好きだよ…?」
これは本当? それとも嘘? 任務から始まった関係はオレを混乱させる。それでも、身体は繋がって、快楽だけには正直。
本当の気持ちさえわからなくて、幸福なのか、不幸なのか。だから、オレは闇の中ただ笑うのです。闇に咲く赤い悪の華。
結局、二人とも両思いです。