そうだ、温泉旅行に行ってみよう!
年末の木の葉商店街は、通行人で溢れていた。忍里とはいえ一般人もいる。年始の準備を終えた人々は薄っすらと雪が積もった道路を足早に歩いて行った。
ざっくざっく、みしみし。雪を踏み締める音が木の葉のメインストリートに溢れる。そんな中、家族連れやカップルの波に紛れて、スーパーの袋を片手に持った少年が、木の葉商店街を歩いていた。
お決まりの黒と橙色の上下揃いに、マフラーを巻きつけただけの薄着。今日はオフ日らしく、木の葉マークの額宛ては装着していない。どうやら彼も道行く人々と同様に買い物帰りらしい。
24時間営業の店を見上げながら、少年はアイスを買って帰ろうか、それともこのまま帰宅しようか、思案したあとポケットに手を突っ込み先程、買い物の際に貰った福引券の存在を思い出す。
年末の大売り出しセールの買い物をすると三千両以上一枚で配られる福引券。確か、五等賞はアイスの詰め合わせパックだった。
寒い時期にわざわざ冷たいものを食べる人間の気持ちなど、気が知れないのだが、金髪の少年はどうやらそうは思わなかったようだ。少年は、ニシシと笑うと踵返し、その足で福引会場へと向かった。
「大当たり~」
約10分後。木の葉商店街の一角で、カランカランとベルを鳴らす音が鳴り響き、福引コーナーで、マフラーで首元をぐるぐる巻きにした金髪碧眼の少年は、手に握らされた温泉旅行一泊二日ペア宿泊券に目を落としていた。
いきなり引き当てたのは一等賞。アイスは残念だったが、オレってばやっぱさやっぱ火影になる男だってばよ、なんて思いながら少年は口角を上げた。
「兄ちゃん、彼女と行くのかい?」
「先生と行くってば!!」
満面の笑顔で言い放った少年に周りが固まった。
「お、おい。そういえばあの子って……」
「なんだぁ、ナル坊が来てたのか。あの子はセンセーっ子だからな、あの銀髪の先生とでも行くんじゃないか?」
ええと、名前はなんて言ったっけ。はたけシメジ?この里では有名なはずの上忍の名前をニアミスして(または大幅に逸れて)鉢巻を付けたおっちゃんが、首を傾げた。
はたけカカシは己のアパートの階段を駆け上がってくる騒がしい足音に気が付いて一人布団の中で笑みを零した。そのまま幸せな気分に浸りながら布団に潜り込んだままでいると、
「おお~い。カカシ先生、カカシ先生ってば!」
カカシの布団に下忍の頃と変わらない仕草でナルトが覆い被さる。16歳の少年の体重はそれなりの重量感を持っていたが、カカシはまた布団の中で笑みを零しただけだった。
「ねぇ、カカシ先生。カカシ先生―。起きろってば。もう昼過ぎだってばよ。狸寝入りしててもオレってばわかっちゃうんだからなー!」
カカシに馬乗りになって、ナルトがカカシをゆさゆさと揺さ振る。絶景かな、絶景かな。鼻血が出そうな光景である。
カカシは、今まで寝入っていたけれども、今起きたぞ、という動作で蒲団から這い出すと、瞼を開けた。
「おはようってば、カカシ先生!」
「朝から元気だね、ナルト」
「カカシ先生。もう昼だってばよ。こんな時間まで寝てるから腐ったような頭の中身になっちゃうんだってば。それより、カカシ先生。オレ、温泉旅行を当てたんだってば。すげーだろ」
たとえ口から飛び出しているのが、罵倒であったとしても可愛らしい、なんて思っていると、得意満面な顔でナルトはカカシに微笑みかけた。
「カカシ先生、一緒に温泉行こう?」
カカシの上に乗っかったナルトが、こてんと首を傾げる。
「うーん。それはまたずいぶん素敵なお誘いだねぇ?」
「だろ。あのさ、あのさ、お正月に二人で休み取って、湯治に行くの。サイコーじゃねぇ?」
「ナルトが行きたいならいいよー?」
「もう。オレばっかじゃなくて、先生はどうなのさ」
「オレ?」
「先生は、温泉行きたくねぇのかよ?」
「ナルトとなら、どこでも行きたいかな?」
「カカシセンセーはまた口ばっか上手いこと言う…」
「そんなことないよ。本心に決まってるでしょ?」
「信用ならねぇってば」
「それは酷い。おまえのこと、こんなに愛してるのに」
いつの間にやら蒲団から這い出した大人の長細い指に耳の裏側を擽られ、ナルトはううう…と唸った。そのまま、後頭部を引き寄せられ、口付けられる。くちゅ、と舌と舌が絡まる濡れた音が響いた。
「カカシ先生、朝からエロ…」
「しょうがないでしょ、おまえが可愛いんだから」
カカシのパジャマの裾を引っ張って、ナルトは頬を紅潮させた。カカシはナルトの身体を布団の中に引き寄せた。外気で寒くなったナルトの身体に、カカシの腕が絡む。